文 マンティー・チダ
NTTリーグワン、ディビジョン2の三菱重工相模原ダイナボアーズは4月10日、相模原ギオンスタジアムで三重ホンダヒートに15-16で敗れ、レギュラーシーズンを9勝1敗の勝ち点43で1位通過とした。試合当日は強風が吹くなど厳しいコンディションで逆転負けを喫したダイナボアーズだが、2週間後の順位決定戦、その先の入替戦に向けて価値のある敗戦となった。
レギュラーシーズン最終戦は三重ホンダヒートに逆転負け
前半は風下で戦ったダイナボアーズ。序盤はヒートに押し込まれてペナルティを重ねるが、風で押し戻される状況を生かし、ハイパントからマイボールにして敵陣へ入り込む。一度ヒートにハーフウェイラインまで戻されるが、ターンオーバーをきっかけにFB石田一貴のオフロードパスを受けたWTB関本圭汰が一気に敵陣深くまでゲイン。しかし、ヒートWTB尾又寛汰のタックルを受けてノックオンとなり、先制のチャンスを逃す。
ダイナボアーズはノットリリースザボールから、ヒートにペナルティゴールで先制を許すが、関本のビッグゲインからチャンスメイクすると、ヒートのペナルティからダイナボアーズはスクラムを選択。No.8ディラン・ネルがインゴールへ飛び込んで逆転、27分にもネルがハーフウェイライン付近でターンオーバーに成功すると、そのまま独走トライ。ダイナボアーズがヒートを12-3と突き放した。
その後、ヒートに前半2本目のペナルティゴールを決められて6点差とされたダイナボアーズは、終盤に敵陣へ攻め込んでチャンスを伺うものの、ヒートのディフェンスに阻まれて追加点を奪えず、12-6で前半を折り返す。
後半6分、ヒートのFBマット・ダフィーからの突破をきっかけに、ダフィーのオフロードパスを受けたNo.8パディー ・バトラーにサイドを走られて1点差とされる。その後、何度もダイナボアーズは敵陣へ入り攻め込むも得点できないまま終盤を迎えると、ヒートの尾又に走られて逆転のトライを許した。これが決勝点となり、ダイナボアーズは15-16で敗戦し、レギュラーシーズンを全勝で終えることはできなかった。
「俺たちのスタンダード」でヒートはダイナボアーズに黒星をつけたが・・・
前節のマツダスカイアクティブズ広島戦勝利で、レギュラーシーズン1位通過を決めていたダイナボアーズに対し、ヒートが3位通過を決めていながらも2週間後に再び対戦するダイナボアーズから、この時点で勝利をしておく必要があった。
キャプテンのFL古田凌は「(前半リードを許す展開でも)まず焦りはなかった。自分たちのラグビーが前半からできているし、ポジティブなイメージでやれていた」、勝利の立役者となった尾又も「普段の練習から強度の高い練習をやってきているので、ダイナボアーズに走り勝てることに対して、チーム全員が自信を持ってプレーできていた」と2人のコメントからダイナボアーズ対策を練習からやってきたことが伺える。
後半にバトラーが1点差とした場面では「俺たちのスタンダード」という大きな声がグラウンド上から響きわたる。
この試合をそのまま受け取れば、ヒートが会心の勝利をなし遂げたことになる。しかし、ダイナボアーズは前節のスカイアクティブ戦勝利によって、レギュラーシーズン1位通過を決めたために大きくメンバーを変更。前回ヒートとアウェイで対戦した時にスタートメンバーとして出場していたのが、この試合2トライのネルだけだった。バックスはメンバーが大きく変わるなど、2週間後の順位決定戦やその先の入替戦を見据えた選手起用だったのである。
「2週間後に選べる選手が増えた」ことで激しくなった三菱重工相模原ダイナボアーズのポジション争い
「前節出場した選手からケガで変更した選手はいませんでした。今季は練習試合がなかなかできないなか、前節で1位通過を決めたので、自分たちのスコッドをもっと強くするため、みんなにチャンスをあげました。練習で努力した選手には、試合に出してチャンスを与えることが大事だと思いました。それを今日できたことで2週間後(4月24日)に選べる選手が増えた」とダイナボアーズのグレッグ・クーパーHCはその意図を明かした。
攻撃面でやや精彩を欠いた面は否めないが、チームカラーである規律の高いディフェンスは、選手が変わっても不変だった。激しいタックルで相手のラインを上げさせないディフェンスは、これまでチームが培ってきたそのものである。
バイスキャプテンのPR細田隼都は、3月19日の日野レッドドルフィンズ戦から3試合連続でスターティングメンバーに名を連ねた。逆転負けを喫した試合にもかかわらず、細田は「ものすごくポジティブ」と試合を前向きにとらえていた。
「試合になかなか出られなかった選手や緊張感を持ちながら公式戦デビューを迎えた選手もいて、試合中にはケガ人が出るというトラブルがあったにもかかわらず、15人でしっかりラグビーをできたということでこれからの2週間における練習のレベルも高くなるでしょう。今回休んだ選手にとっても大きな刺激になったはず」と収穫を口にする。
レギュラー争いとして考えれば、2トライをあげたネルや守備で存在感を示したCTB杉浦拓実も例外ではない。
「ポジション争いが熱くなることは大事なことで、スターティングが最初から決まっているわけではない。毎回しっかりパフォーマンスを出していかなければ次はないというプレッシャーを感じています。ラグビーはチームスポーツでケガがありますから、ケガで変わらないといけない状況でも、次の人が良いパフォーマンスを出せるという自信もありますから、チームにとっては良いと思います」とネルが話す。
「チームの柱でもある、マイケル・リトルやマット・ヴェルガからポジションを奪うのは大変だと思います。常に挑戦する気持ちを忘れないようにしていきたい」と杉浦も想いを綴った。
ダイナボアーズは、来シーズンのディビジョン1昇格へまさにこれからが正念場。2週間後の4月24日から行われる順位決定戦で最終順位が決まり、この順位こそが入替戦に向けて重要な要素となる。
「次の試合まで約2週間あると思いますので、まずは時間をしっかり使うこと。それができれば良いパフォーマンスを出せると思います。メンバーもできるだけ早く決めて、この試合で学んだことをしっかりレビューしていくことが大事です。レビューを生かして、コネクションやコンビネーションをしっかり作ること、時間をうまく使うことですね」とクーパーHCは今後のポイントをこう示した。
最終節でしっかりと選手層の厚みを見せつけたダイナボアーズ。24日に迎えるヒートとの再戦は、けが人次第だがベストメンバーを揃えてくるものだろう。「誰が試合に出場しても、しっかりパフォーマンスを出せるというのが、今日の試合で分かった」と細田が話す通り、9日のヒート戦がチームにとって価値ある敗戦となったわけだ。
ダイナボアーズにとっては、この価値ある敗戦をきっかけに激しいポジション争いのゴングが鳴った。同時に、ディビジョン1昇格へシーズンで一番大切な時間を過ごすことになることだろう。