文 マンティー・チダ
Bリーグ、横浜ビー・コルセアーズに今シーズンもニューカマーがやってきた。といっても完全なるニューカマーではない。新たに加わったのは、#5河村勇輝(東海大学から特別指定選手)と#23キング開(専修大学からシーズン選手契約)。ともに、昨シーズンは特別指定選手として海賊の一員だった。いわば「ビーコルに戻ってきた」という表現が一番ふさわしいのかもしれない。
そして、2人の加入はチームに活性化を与えるわけだが、同時にポジション争奪戦のゴングが鳴らないといけない瞬間だった。
河村勇輝とキング開が2シーズン連続で海賊の一員に
「本当に説明の要らない選手が入ってくれました」
記者会見の冒頭にこう切り出したのは竹田謙GMだった。昨シーズンまで選手として横浜BCに所属し、河村やキングと一緒に行動を共にしている。
「2人の人間性が何よりこのチームにとってプラスになるのは、昨シーズンから思っていましたし、今シーズンのチーム作りにおいて、必ず2人には戻ってきてほしいという想いはずっと持っていました」
竹田GMは、選手として2人に触れてきたからこそ、2人の良さを誰よりも熟知していたのだろう。そして、何としても2人に戻ってきてもらいたく、「あの手この手」を使い、2人をビーコル復帰へ口説き落としていたのだ。
「竹田GMからは『ぜひ来てほしい』と熱い言葉を頂いた。昨シーズンも一緒にプレーさせていただき、ビーコルというチームでもう一度プレーしたいという気持ちもありました。何よりもブースターさんの声援や温かさをもう一度体感しながら、悔しい経験で昨シーズンを終えているので、もう一度チャンスがあるならば、恩返ししたい気持ちがありました」(河村)
「竹田さんからは人間性の部分で褒めてもらえた。ビーコルが欲しがっているという話を聞いて、これからプロの選手になるには、バスケ以外における人間性の部分も同じだと思いますので、そこを熱く言われたのがこのチームに決めた理由です」(キング)
「当然、人気のある選手2人ですから、どうなるのかわからない」と竹田GMが不安に思うぐらい、大学を代表する選手にはビーコル以外からも多くのオファーがあったと想定。その上で、横浜BCを選んだ2人は、相当な覚悟でチームへ合流したことが伺える。
連敗の危機感やニューカマーの存在からステップアップする森井健太
確かに河村とキングが加入したことで、チームは活性化されるのだろうが、同時に激しいロスター争い、ポジション争いのゴングが鳴り響いた瞬間でもあった。
2人の入団で、横浜BCの選手総数は15名。(内訳:日本籍選手 9名、外国籍選手 3名、帰化・アジア枠選手1名、特別指定選手2名)
ベンチ入りは12名のため、常に3名はロスターから外れることになる。外国籍選手(パトリック・アウダ、レイトン・ハモンズ、レジナルド・ベクトン)と帰化・アジア枠選手(エドワード・モリス)は現実問題として、コンディション不良が無い限り、ロスターから外れることは無いだろう。
ということは、残ったロスター枠9に対して、日本籍選手12名が争うことになる。実際、河村とキングの今季デビュー戦となった琉球ゴールデンキングス戦では、#4ジェイコブス晶、#11阿部龍星、#17土屋アリスター時生が2試合ともベンチから外れている。つまり、うかうかしていたら、試合にも出場できないということになるわけだ。
横浜BCは11月10日の群馬クレインサンダーズ戦から9連敗、12月19日の滋賀レイクスターズ戦で連敗から脱出したものの、25日と26日の琉球戦では連敗。さらに、河村とキングがプレーしたことにより、プレータイムが減少した選手もいた。
その中で、このところ上り調子になってきたのが、河村やキングとポジション争いをする#18森井健太である。19日の滋賀戦で今季初先発とすると、26日の琉球戦まで3試合連続のスタート5で、プレータイムも常時20分を超えてきた。まさにこのままでは終われない。森井は相当な危機感を持ってプレーをしていた。
「1ヶ月ぐらい勝ちがないという本当に苦しい時期があって、何をすればよいのかをすごく考えていました。ゴールに対するアタックする気持ち、チームを勢いづかせるプレーを考えながら、滋賀戦、琉球戦に臨んでいました」と森井は試合に臨む心境を明かした。
青木勇人HCも「滋賀戦で自分たちが何をやらなければ勝てないのかを、自分たちで気づいたのは大きかった」と滋賀戦が良いきっかけになったことを認めている。
滋賀戦が終われば、河村とキングがチームに合流する。受けて立つ選手たちにしてみれば、これ以上負け続けるわけにはいかなかったのだ。
河村とキングが加入したことで激しくなるポジション争い
さて、肝心のポジション争いだが、河村とキングが加入したことで、ポイントガードは#46生原秀将や阿部を含めて5人となった。当然ながら、ロスターから漏れる選手も出てくるだろう。
とりわけ、ここまでキャプテンとして、チームを鼓舞する生原の陰に隠れる存在だった森井にしてみれば、若き海賊たちにポジションを奪われる可能性もある。その危機感は、森井を含めたガードやウイングの選手たちにおける、顔つきや動きの変化で示されていた。
「やはり競争というのは自然とチーム内に生まれていますし、何よりガード陣が積極性を見せることで、チームの雰囲気は本当に変わると僕は感じているので、そういった強い気持ちというのを僕も含めて、みんなが持てれば本当に強いチームへなっていくのではないかなと思います」
森井は、チームが強くなるための競争を大いに歓迎する。プロチームである以上、チームの勝利が最高の結果であり、最低の条件でもある。それぐらい、プロは過酷な世界なのだ。
河村はアシストやアグレッシブなディフェンス、泥臭いルーズボールを見て欲しいとブースターにアピールした。実際、琉球戦でも前線からの激しさからボールを奪って味方へアシストを記録するなど、持ち味を発揮したことで試合の流れを変えていた。
「練習からすごく刺激をもらえるガードの先輩方がたくさんいるので、その中でも試合に出るためには、自分の特徴を理解して発揮することが大事。自分はスピードを生かしたプレー、前線からディフェンスでチームを鼓舞するというところを、フレッシュマンとしてやるべきところだと。今後はもっとプレーの選択肢を増やしていきたいですけど、今はフレッシュマンとしてやらないといけないことを全うすることだと思います」とポジション争いに意欲を示す。
キングは、得意のドライブや泥臭いルーズボール、ディフェンスを一生懸命することを誓った。「自分はガードをはじめて数年なので、みんなの上手い部分を吸収しながら、身体能力やサイズを生かしたプレー、他の選手ができないことをアピールしたい」とユース時代からなじみのある横浜BCの選手として決意表明をした。当然ながら海賊のエースへ期待が膨らむ。
青木HCは「嬉しい悲鳴でハンドラーが増えたので、いろんな組み合わせが考えられます。試しながらも、まわりがサポートしながら思いっきりプレーさせることも考えないといけない。いずれ独り立ちの時がくるかもしれないし、新たなハンドラーがステップアップするかもしれない」とポイントガードのポジション争いは横一線を強調した。
琉球戦の起用から、2人のポイントガードがコートに立つ「ツーガード」、ビッグマンが3人コートに入る「ビッグラインナップ」といったシステムも採用されている。つまり、河村やキングが加入したことで、2番や3番に入る選手は、これまでよりもプレータイムを削られる可能性がある。
そういう意味でも、2人のフレッシュマン加入は、横浜BCにとってチーム活性化の起爆剤にしないといけないし、起爆剤とならなければ上位に顔を出すのはより一層難しくなるだろう。