文 マンティー・チダ
Bリーグ、B1の秋田ノーザンハピネッツは4月10日、とどろきアリーナで川崎ブレイブサンダースと対戦。序盤から追いかける展開となったが、残り5分から怒涛の追い上げで大逆転。川崎に87-86と勝利した。
中山拓哉の劇的なブザービーターで大逆転勝利
前半から試合のペースを掴んでいたのは川崎だった。#22ニック・ファジーカスのポストプレーで先制し、#33長谷川技のミドルジャンパー、#35ジョーダン・ヒースのダンクなど、内外で効果的に打ち分けて得点を重ねていく。秋田は川崎にペースを握られながら、タイムアウトで修正をかけてディフェンスからペイントアタックや速攻で勝負し、#5田口成浩の3pなどで2点差まで追い上げていった。
2Qに入ると、一進一退の攻防から川崎に抜け出されるが、秋田は終盤に田口の3p、#9アレックス・デイビスのバスケットカウントで40-40の同点に持ち込んで前半を折り返した。
後半、川崎#23マット・ジャニングの3pなどで大きくリードを許した秋田。その流れが4Q前半まで続く。残り6分を切ろうとした場面で、秋田は19点のビハインドを背負っていた。
しかし、ここから秋田の猛追が始まる。フロントコートから守る姿勢を見せたことで、川崎のターンオーバーが続くと、これをきっかけに秋田が速攻を仕掛けて、#7ジョーダン・グリンがジャンパーを決める。川崎がタイムアウトをコールするも、流れはさらに秋田へ傾いていくと、川崎のタイムアウト前からコートに戻っていた#17中山拓哉がスティールからファストブレイクに成功し、#1王偉嘉もポストプレーからの得点で続いた。
さらに、グリンが2本の3p、#51古川孝敏やデイビスも3pを沈めて、ついに1点差。川崎#0藤井祐眞に2本フリースローを入れられて、秋田は3点差に戻されるが、中山がレイアップを決めると、最後のポゼッションで再び中山がブザービーターとなる超ロング3pを決めて大逆転。秋田が川崎から価値ある1勝をあげた。
「GAME2に勝つことが僕の中で大きなモチベーション」
秋田は、前日のGAME1で自慢の3pがわずか3本しか決まらず、得点を伸ばすことができなかったが、GAME2では前日の5倍超で川崎を上回る16本を沈める。確率も50%に迫る47.1%と驚異的な数字を残していた。
それでも試合開始からリードをしていたのはむしろ川崎で、秋田は前半の終盤と4Q残り6分以降における驚異的な3p成功率から川崎に喰らいついていった。
秋田の前田顕蔵HCは「選手全員で繋ぎながら、良いモチベーションを持ってやってくれた。コルトン選手がいなくなって、チームが自信を無くしていた。不安になっている状況において、昨日(GAME1)完敗しました。GAME2になって、勝たないといけないのか、自分たちのスタイルを表現しないといけないのかということで、僕の中ではGAME2に勝つことですごく自信になるというのは、僕の中で大きなモチベーションとなっていました」と話す。
コルトン選手というのは、212㎝のビッグマンである#45コルトン・アイバーソンのこと。4月6日のサンロッカーズ渋谷戦で負傷し左足関節捻挫と診断をされて、川崎戦ではベンチ外。インサイドで存在感を放てる選手が不在となったことで、秋田はより一層激しいディフェンスと高い3p成功率が求められていた。
「あのシュート(試合終了直前に決まった中山のブザービーター)が入ったから勝ったのですが、ずっと苦しかったのは間違いない。今季は3pが武器になっているので、10点ビハインドでも諦めずにディフェンスをしていればチャンスがある。それを選手たちが表現してくれた」と前田HCは厳しい状況にもかかわらず戦ってくれた選手に感謝の意を示した。
「諦めたら絶対に終わり」と胸に秘めながら、川崎からの大逆転勝利はチームにとって大きな自信となっていたのである。
「ディフェンスで波を作らない」
最後のブザービーターを決めた中山は、その1ポゼッション前に訪れた場面でレイアップを決めている。というのも、残り時間が少ない状況において3pを沈めれば同点にすることができたからだ。
「3pの指示を出していた」と前田HCはその時の状況を明かしたが、川崎も3pを打たせないディフェンスをしていた。「レイアップに行ってしまったということですね」と中山の考えを尊重する。
「(3pは)その前も入っていなかった。ファウルゲームに持ち込んでから、次のポゼッションで残り4秒か5秒にシューターが打てれば良いのかなと思いつつ、チームとしても打ちたかった。僕の判断ミスでもありますが、いかなきゃという想いもありながら、リングに向かいました」と中山は最後の場面をこう振り返った。
残り2分あたりから始まった、秋田の驚異的な粘り腰がクローズアップされがちだけど、そこに至るまでの伏線は4Q中盤にあった。中山がコートに戻ったのは、4Q残り6分15秒であり、61-77と川崎を16点差追いかける展開である。
「僕自身はディフェンスが自分の強みだと思っていますので、僕がアグレッシブにすることをチームに見せることでチームに勢いがでると思い、個人として意識をしました。(秋田には)ディフェンスのチームとしてコンセプトがありますから、その中でオフェンスが良い悪いということはありましたけど、ディフェンスでその波を作らないということはチームで話をしていました。もっと我慢が出来れば、さらに良いゲームをすることができると思いますので、意識してやっていきたい」
中山はそんなことを思いながら、コート上でプレーをしていた。秋田は激しいディフェンスを売りに、これまでもBリーグで戦ってきている。
「インサイドがきつい中でも、40分間チームとして戦えた結果が勝ちに繋がった」と中山が会見冒頭に残したコメントこそが、秋田に求められていることなのだろう。
秋田は悲願のチャンピオンシップ(CS)進出に向けて、まさに正念場を迎えている。ただシーズン最初の頃に比べれば明らかにチーム力は上がってきた。ワイルドカードの2番手争いを西地区のシーホース三河と繰り広げているのが実情。ただ、川崎に劇的な逆転勝利をアウェイで成し遂げたことにより、B1上位とは遜色ない実力を兼ね備えていることを証明した。
レギュラーシーズンも残りわずかになったが、秋田にはまだまだ伸び代が期待できる。もちろん、アイバーソンの復帰も気になるところだが、川崎戦の勝利から得た自信が確信に変わった時、秋田の覚醒は本物になる事だろう。