文・写真 マンティー・チダ
バスケットボールを進化させたいという意思で選手たちに接してきた、東京医療保健大学女子バスケットボール部・恩塚亨監督。
では、どんなことをコロナ渦で勉強をされてきたのだろうか。
戦略についてはあまり考えたことがなかった
― どんなことを勉強されたのですか。
例えばビジネスで考える場合、結果を出すためには目的・戦略・戦術を決めて実行するではないですか。
私はこのような考えでバスケットを考えていませんで、どちらかというと戦術で考えていました。
目的があって、目的のために戦略や戦術があります。
オフェンスで言えば点を取ること、点を取るために戦術ばかりを考えていましたが、戦略についてあまり考えたことはなかったです。
戦略と戦術、ピンとこないではないですか。
私はこれらをわかっていなかったのですが、やっとわかってきました。
この話でいえばポイントがあって、ほとんどの選手が目的を見失いがちで、プレーをしているときに点を取ることが目的なのに、スクリーンをかけることやコーチから言われた通りにするのが目的になってしまっています。
やはり、目的意識を持つということは大事です。
戦略というのがなぜ必要かというと目的があるからです。
自分が持っている経営資源が誰であっても、その選手が攻めて点を取れるということであれば、戦略なんかいらないです。
その選手にやらせれば良いわけですから。
時間・人・才能など色々とある中で、やりくりをして結果を出したいのです。
私たちが持っている選手の強みから、どのように最大限生かして点を取るかというストーリーをきちんと思い描いてプレーできるのか。
ただこういうプレーがあるから、これやろうぜということではありません。
森岡さんの本で面白かったのは「日本人は戦術が得意だけど戦略は苦手」と書かれていたことです。
なぜかというと、戦術でやりくりして頑張って何とかしようとする、だけど人も時間も経営資源も足りない中で、対局で見た時にどこで勝つのかというのが必要ではないですか。
そういうマネイジメントをきちんとして、戦えるようになりたいというのが今の考えです。
これはビジネスと一緒だなと。
― これまでのコーチングは戦術だけでどうにかなっていたということですか。
戦術中心でした。
どういう戦術が相手に効くかと、そこにはちょっとした戦略があったと思います。
戦略はマクロ的な見方で大きく戦う軸だと思っていましたけど、戦略は自分が持っている経営資源を最大限有効に活用して結果を得るためのマネイジメントであると。
― 今年のチームはそういう要素が強いということですか。
そうですね。自分たちがやろうとしているバスケットでもあります。
相手の特徴があるなかで、相手の特徴に対して自分たちがポイントをついていくということを、私は「キャンペーン」と呼んでいます。
戦争で使うらしいですね。
こういう戦い方をする、ここに対してはこういう「キャンペーン」で行こうみたいな、そこにフォーカスしています。
実は戦争の本も読んでいました。
コロナ禍で読んでいた本の内容は、今年のチーム作りに生かされていると思います。
― 試合当日のコーチングでも注目すべきポイントですか。
当然、戦略を立てて戦っていますので、それに沿っているかはチェックをします。
以前も無かったわけではないですが。
選手たちも今何をするべきか、わかっている時間を増やしたい。
何も考えていなくて、とにかく頑張っている時間を極力減らすというのが経営のマネイジメントであり、そういうことをしたいです。
選手たちが戦略に沿った軸をもって考えていくことが重要になります。
― 東京医療保健大学のバスケスタイルがそこまで変わるとは思えないですが、見方は変わってきますか。
頑張っていくというオペレーション、その場でなんとかしようとするオペレーションではなくて、ある考え方に基づいて頑張っているというものをもって戦えるようにしたいです。
これに関しては少しずつ積みあがってきています。
選手に話を聞いてみても「バスケット面白くなってきました」と手応えを感じているようです。
― コロナ禍を経て、大学バスケの位置づけをどのように感じていますか?
今質問されてドキッとしましたが、そこから活動意義を見出していけますので、考えた方が良いかなと思います。
このチームがどうすればレベルアップできるのかという意味でも。
正直なところ、自分たちが試合できるかどうかもわからないし、感染者数の増減とかを考えていくとキリがないなと思いました。
感染者数の増減ばかりを心配することをやめた理由はそこにあって、それは私が影響できるところではない。
他の団体かどうだとか、バスケットのインカレをするかどうかも含めて、私が影響できないことなので、だから考えることはやめようと思いました。
リーグ戦があるのかどうかもわからないですが、我々ができることに集中してやろうと選手にも言っています。
バスケット勘は上がりました
恩塚監督は、ある考え方に基づいて頑張っていくという方向性でチームを成長させていた。
では最後に現在のチーム状況について伺ってみることにしよう。(リーグ開幕前時点です)
― 今年は特にコロナ禍ということもあって、スケジュールも予定通りではない状況ですが、恩塚監督から見て選手は例年と違って大変だなと感じていますか。
そう思わないように準備しようぜと選手には話をしています。
これも「七つの習慣」ですけど、自分がコントロールできることとできないことがあります。
それは「課題の分離」という言い方もありますし、自分が影響できないではないですか、試合があるとかないとか。
でも自分は試合に向けて最善の準備をする、そこにきちんとフォーカスをしておいて欲しいです。
これはまだ選手に話をしていませんが、最近知ったことで「セルフ・ハンディキャッピング」という言葉がありまして、テスト前になると掃除したくなるではないですか。
あれは「掃除していたから勉強ができなくてテストができなかったという言い訳を作りたくて、そういう本能が働いている」ということを無くそうということのようですよ。
― チームの手応えはどうですか。
ステップアップはできていると思います。
ただ相手を見ていないので、何とも言えないです。
― 練習試合とかできていますか。
Wリーグのチームとはしました。大学とは一回もできていません。
データ不足なところもあります。
Wリーグのチームと大学のチームで試合をする上で、そこまでは違わないと思います。
大学生の力はわかりませんが、練習試合を重ねる中で成長は出来ていると思います。
― 今年のリーグ戦開催に関しては、やっとという想いですか。
ありがたいという感じですね。
うれしいとなると、単純に試合ができることを嬉しいと思うだけでは、
他の連盟でもできていないところもありますし、医療従事者のことも考えるとリスクを広げてしまうこともあるではないですか。
ましてや、PCR検査を受けていない状況での実施には、リスクがあると考えてより健康管理に慎重になる必要があると思っています。
みんなで気をつけて、お互いを大切にして頑張りましょうという感覚ですね。
― インカレ4連覇という言葉がどうしても聞こえてくると思いますが。
もう一戦一戦、それだけですね。
ただ、優勝する力をつけるためにということは常に意識しています。
この努力で優勝できるぞと。
手ごたえは未知数ですね。相手がわからないから。相手を見ればまた違いますと思います。
― こういう形でシーズンを迎えるのは初めてですか。
初めてです。これまでもワクワクしたことは無くて、どの試合でも不安しかないです。
今年も同じように不安ですが、バスケット勘は上がったと思います。
どんな試合も簡単ではありません。私たちが努力しているように相手チームも努力しているからです。
だからこそ、今回も同じように相手をリスペクトして戦いたいと思っています。
バスケット勘を上げて準備してきたと思っているので自信を持って戦いたいと考えています。
― もし良い方向に進めば、成果は見えてきますか。
どの視点で考えるかですが、私の視点でいえば、本を読んで学ぶことや自分の尊敬する方の話を聞くことやバスケット以外の情報や考え方を通して、自分の考え方をレベルアップさせることが不透明な状況の中でもできることに集中して努力できる。
試合があるかどうかもわからない中でぶれずにできる。この2点に関しては重要であり意味があることだと思っています。
― 今年のメンバーで結果をさせればその先も見えてくると思います。
はい、能力ではなくバスケットボールで勝負します。
取材後記
恩塚監督はコロナ禍において、読書をしながら様々なことを見つめなおし勉強していた。
アカツキファイブ女子日本代表アシスタントコーチとして、オリンピックに行けなかった悔しさはある。
しかし、コロナ禍にあって「いつか自分も死ぬ」と意識してからは、成長したいと願っている選手の力になるために努力する人生とすることを決意し、目的、戦略、戦術を考えることでバスケットボールを進化させたい想いを強調した。
昨年まで在籍していた最強世代が卒業し、個人の能力は落ちるのかもしれない。
ただ「能力ではなくバスケットボールで勝負すること」を選択した恩塚監督を先頭に、チームが成長する姿をみせてくれるものだろうと私は確信したし、きっと成し遂げてくれるだろう。