文・写真 マンティー・チダ
Bリーグ、横浜ビー・コルセアーズは11月20日、横浜国際プールでアルバルク東京と対戦して、83-77で勝利。#23キング開の先発起用など、布陣を変えてきた横浜BC。何としても連敗を避けたい指揮官の執念で、試合は大きく動いた。
オフィシャルタイムアウトを待たずに青木HCがタイムアウト請求
4Qの残り5分18秒。横浜BC青木勇人HCはタイムアウトをコール。あと1ポゼッションを凌げば、オフィシャルタイムアウトを迎えていた。それを待たずに青木HCは自ら勝負を仕掛けていく。
1Qに#33須藤昂矢がディープスリーを沈めてから、横浜BCはずっとリードを保っていたが、4Q残り9分6秒に#10ザック・バランスキーにコーナーから3pを入れられて、A東京に逆転を許していた。#9森川正明や#1パトリック・アウダのレイアップでA東京に喰らいつくが、A東京#11セバスチャン・サイズにジャンパー、#9安藤周人には3pを決められ、横浜BCはA東京に5点差をつけられていた。
この時点で残り5分18秒。青木HCは、後半で使用できるタイムアウトを2回分残していた。もう1ポゼッション守り切れば、オフィシャルタイムアウトを迎える場面で、青木HCはタイムアウトを決断する。
「何とか持ちこたえて、オフィシャルタイムアウトで修正をかける」というプランもあったとした青木HCだったが、サイズと安藤に失点を許してから「嫌な点の取られ方、やられたらいけない取られ方でしたので、あそこはタイムアウトを取るしかなかった」と方針転換。青木HCは、タイムアウトへ舵を切ったのだ。
残り5分18秒のタイムアウトは「ここで一回締めておきたい」、その後のオフィシャルタイムアウトでは「コートの中でしっかりしゃべる事、遂行する内容の修正をかけた」と指示内容を明かす。
これが機能すれば「勝機がある」と青木HCは確信していた。実際は、河村の3点プレーで2点差まで詰めよってオフィシャルタイムアウトを迎え、その後は#23キング開のコーナースリーで逆転。タイムアウトをコールして流れを変えようとしたA東京に対し、横浜 BCは河村が果敢に攻めて、3pを含めた7得点をあげて引き離しに成功。キングもこの試合4本目の3pを決めるなど、終わってみれば83-77で勝利とし、ベンチワークが冴えた価値ある1勝となった。
キング開先発、森川正明ベンチスタート、この選手起用がズバリ的中
青木HCはこの試合を迎える上で大きな決断を下していた。これまで先発起用してきた森川をベンチスタートにして、代わりにキングをスタート5に抜擢する。
もちろん、河村とキングという、今をときめく若手を並べたラインナップから魅力を感じたが、それ以上に指揮官は森川のベストな生かし方を模索していた。
「セカンドメンバーの中でスコアラーがどうしても必要だった。責任感が強い選手なので、少し組み合わせを変えて、彼の良さを引き出せるメンバー変更だった」
青木HCの想いを受けて、森川はベンチからコートインすると、2Q出だしの3pをきっちり沈めて、クォーター最初の流れを作る。それ以降も要所で3pやレイアップを決めるなど、14得点でチームに貢献した。
「森井(健太)にも話をして、森川の良さを引き出してほしいと伝えた」と森川とのプレー経験が長い、もう一人のポイントガードで主将の#18森井健太に声をかけていた。「どの場面でもディフェンスでストップしてスコアができる」と踏んだ指揮官。
「今日の試合を忘れずに、また来週のホーム2連戦にいかしていきたい」と森川もコメント。まさに組み合わせの妙と密なるコミュニケーションが生んだ森川の活躍だったのである。
そんな森川の様子を、河村は尊敬の眼差しで見つめた。
「スタートから(森川選手は)外れましたが、自分とのタイミングも素晴らしく合います。ベンチから出てきても横浜のポイントゲッターであることに変わりはない。そういったベテランの選手がベンチ起用になっても、何一つ文句を言わずに戦っているところを見習うべきだと思いますし、チームの底上げにもなっている」とベテランの姿勢に脱帽。それぞれが持ち味を発揮して生まれた勝利でもあった。
今季のチームスローガン「BEAT ALL」を体現できた試合
もちろん、河村とキングの組み合わせも抜群だった。
青木HCはこの試合のテーマとして「スピードで勝とう」を掲げていた。フィジカルと高さでは、A東京に分がある。「自分たちの強みはトランディションとスピード感」とリーグ開幕前から方針を掲げていた青木HCにしてみれば、こういう場面こそ、チームの強みを生かす時だと認識していた。
河村とキングの組み合わせについて「スピード感がある」と評価する。73点目の逆転となるコーナースリーを沈めたキングは「スタートでもベンチでもやることは変わらない」と急遽の先発抜擢にも準備万端だった。
「(河村)勇輝がピックを使って、自分がバックカットなどで裏を合わせるのは得意なのですが、あの時間帯ではディフェンスを見るとすごく中に寄っていて、みんな勇輝を意識していたので、絶対に外は空くはずだと思っていました。パスが来たら決めるだけという準備は毎ポゼッションしています。勇輝からのグッドなパスが来たら、あとは自分が決めるだけで、仕事はこなせられたのかな」とキングは逆転のシーンを振り返る。
「ピックの使い方や癖、次にこう来るなと予測ができる」と河村との組み合わせには自信を見せたキング。「バックカットがきれいに決まれば、彼はどこにでもパスを出せると思います」とまさに名コンビと言っても過言ではない。
一方の河村は、キングとのプレーを「楽しくやれています」と話したものの、
「横浜は自分のチームではない。見てもらったらわかると思いますが、勝った試合は全員がステップアップし、全員が得点をとって、全員がバスケットをしている。横浜は全員が戦って勝つチーム。みんなに感謝をしながら、僕も勝利に貢献できるようなプレーを頑張りたい」と先輩たちへのリスペクトを忘れていなかった。
今季の横浜BCは、スローガンとして「BEAT ALL」を掲げている。
【BEAT】(人やチームに)勝つ/やっつける/打つ/たたく/鼓動・拍子/はばたく
【ALL】全部・すべて/最大・最高の
【BEAT ALL】驚きである、感銘を与える
青木HCは「チームとして体現できた。集中力を切らさず、最後まで戦えた試合だった」と記者会見の冒頭で総括をしていた。最後まで集中力を切らさずに、自分たちのバスケをやり切ること。指揮官が描く戦術や選手起用、その期待に応える選手たち、まさに「全員バスケ」を成し遂げた時こそが、今季の横浜BCなのである。