文 マンティー・チダ
関東大学ラグビー対抗戦Aグループ、帝京大学と明治大学の全勝対決は、14-7で帝京大に軍配が上がった。これで帝京大は明大に対抗戦4年ぶりの勝利となり、3年ぶり9度目の対抗戦制覇へ王手をかけた。
スクラムの強さで帝京大が前半に2トライを獲得
試合開始から、帝京大の持ち味であるスクラムの力強さが炸裂する。最初のスクラムで明大からコラブシングを誘った帝京大は、タッチキックから敵陣深く入り込む。ラックからのオーバーザトップやボールを前方に落とすノックオンなど、帝京大は攻め切れない時間もあったが、明大のノックオンで獲得したスクラムからインゴールに向かって押し込むと、前半15分、SO高本幹也のキックパスに反応したWTB高本とむが左隅に先制のトライを決める。
その後も、明大のエリアで試合を進めた帝京大は、前半28分、WTB白國亮大がゲインし、フォローについていたPR照内寿明がボールを持つと、クロスバー下まで駆け込んで追加点をあげた。前半は2トライ2ゴールをあげた帝京大が14-0と明大をリードして折り返す。
後半、追いかける側の明大に序盤から攻め込まれる。ハーフライン付近からアタックとボールキャリーで自陣に入り込まれると、帝京大のハイタックルより自陣22mラインまで明大に押し上げを許した。
ラインアウトで明大HO田森海音からのボールをリフトの裏側でSH飯沼蓮がキャッチ。そばに走り込んできたWTB石田吉平へパスを通されると、石田にすかさずインゴール付近まで突破され、最後はPR大賀宗志にトライ。帝京大は14-7と点差を詰められた。
帝京大はここから我慢の戦いを強いられ、流れに乗った明大から再三自陣へ入りこまれてしまうものの、土壇場でディフェンスが機能し、明大に得点を許さない。PR細木康太郎がケガで途中退場したものの、帝京大は強度の高いスクラムと堅いディフェンスを継続しノーサイド。帝京大が全勝対決を制して、対抗戦優勝に王手をかけた。
磨きのかかったディフェンス、答えのない頑張りを感じました
帝京大は、前半からスクラムの強度で明大を圧倒し優勢に試合を進めていた。しかし、後半開始早々、明大に1トライ1ゴールを返されて、逆転負けへ射程圏内とされていた。
「対抗戦の借りは対抗戦で返す」
帝京大は6月に明大と静岡で試合をしていた。「当時、チームとしてスクラムには自信をもっていましたが、きっちり押すことができていなかった」とは主将のPR細木康太郎。「対抗戦の明大戦に向けて、スクラムを練習から意識して取り組んできました」と付け加える。
2本目のトライを決めた照内は「白國がゲインして自分がたまたまサポートへ寄っていくと『照来いよ』と言われて、これは行かないかんという気持ちになりました」とその時の心境を語る。
前半を14-0で折り返し、残り40分間でリードを守り切れば、明大から対抗戦4年ぶりの勝利、3年ぶりの対抗戦優勝が見えるのだが、帝京大は、後半ほぼ自陣での戦いを強いられていた。
後半4分に明大PR大賀宗志のトライ、CTB廣瀬雄也にコンバージョンを決められてから、流れは明らかに明大へ傾いていた。帝京大は再三のピンチも、明大からノットリリースザボールを奪うなど、ディフェンスから自陣を守り切ったのである。
帝京大の岩出雅之監督は「最後まで、学生たちのたくましい姿を期待しながら見ていました。長く感じる時間もありましたし、最後は良いチャンスを持てませんでしたけど、磨きのかかったディフェンス、答えのない頑張りを感じました」と試合後の記者会見で語っていた。これまで大学選手権9連覇を飾った名将でさえ、後半の時間経過は長く感じていたようである。
ディフェンスを見ていても、僕が不安になる要素は少なかった
では、グラウンドで戦っていた選手たちは、我慢が強いられた時間帯をどのように見つめていたのだろうか。
後半16分、怪我によりベンチへ下がっていた細木は「時間の感覚は、早くも遅くも感じず、時間通りに感じました」と普段の試合と同じ感触だとした。
「相手から自陣に入られて攻め込まれる部分もありましたけど、グラウンドで立っている選手たちが『オフサイドするな』『一斉に前へ出ろ』というコールを出していました。自陣で厳しい状態にあっても、ディシプリン(規律)を守ろうという意識があったので、僕の中ではすごく安心していました。そこからターンオーバーやペナルティーを取っていて、敵陣にも入れていましたし、ディフェンスを見ていても、僕が不安になる要素は少なかった」と細木は、グラウンドに自分がいなくても、チームとして機能していることに手応えを掴んでいた。
前半に追加点のトライをあげた照内は、細木と同じタイミングでベンチに下がっていた。「後半の時間経過は早く感じたのかなと思います。メンバーチェンジしてリザーブが入りましたけど、ファーストスクラムから相手に対してプレッシャーをかけていたし、ディフェンスサイクルをしっかり回すことができていたので、細木が言ったように安心して見ることができた」と照内も細木同様に、安心しながら厳しい局面をベンチから見つめていた。
細木や照内のコメントから、帝京大はディフェンスのディシプリン(規律)やサイクルさえ守ることができれば、たとえ厳しい局面になったとしても「失点をすることはない」という自信が見えてくる。
「得点差以上に中身の濃い試合、我々にとっては価値ある1勝だった」と岩出監督は、明大戦をこのように総括。まさにチームとして積み上げてきた練習が、成果として表れた瞬間だった。
対抗戦が終われば、大学選手権が待っている。9連覇を知らない選手たちと9連覇へ導いた名将の復権を目指した戦いはまだまだ続く。死闘を演じた、明大や早大との再戦も考えられるだろう。
「明大戦、早大戦と合わせた2試合から得た魂みたいなものを良い方向へ生かしてもらいたい」
この2試合で得た魂を良い方向へ生かせるのか。細木や照内の発言から、きっと正しい方向へ生かしてくれるものと確信した。