文 マンティー・チダ
ラグビーリーグワンは5月8日、秩父宮ラグビー場でディビジョン2の順位決定戦が開催され、花園近鉄ライナーズが三菱電工相模原ダイナボアーズを34-22で下して、初代ディビジョン2優勝を飾ったと同時に、来季からのディビジョン1昇格を決めた。
エッジのゲインから前半で4トライを獲得し相模原DBに快勝
あのライナーズがトップカテゴリーに。これまで日本選手権優勝3回、リーグワンの前身である全国社会人ラグビーフットボール大会優勝8回、関西社会人リーグでは歴代最多17回の優勝を誇る名門。しかし、2003年に創設されたトップリーグでは優勝はおろか、最後の3季では下部にあたるトップチャレンジリーグで戦っていた。
リーグワンにおいても初年度はD2で戦うことになり、相模原DBと戦った今回の順位決定戦は、5季ぶりのトップカテゴリー昇格をかけた大一番でもあった。相模原DBには、秩父宮ラグビー場で迎えた今季開幕戦とホームゲームでいずれも敗戦。しかし、8日の試合ではアウェイでありながら、花園Lは先に試合のペースを掴んでいった。
試合序盤から蹴りあいの展開ではじまると、花園Lは相模原DBのノックオンから敵陣22m付近でファーストスクラムを獲得。スクラムを組んだ後、SHウィル・ゲニアがすぐにボールを出すと、一度はボールをファンブルするものの、CTBシオサイア・フィフィタがブレースキックを左サイドへ。そのキックにWTB片岡涼亮が反応して、一度は相模原DBのディフェンスに阻まれるが、敵陣インゴール前のラインアウトからLOサナイラ・ワクァが飛び込んで先制点を奪った。
6分後には、SOクウェイド・クーパーが放った飛ばしパスからの展開で、左サイドに待ち構えていた片岡が追加点となるトライ。クーパーもコンバージョンキックを決めて、前半12分終了時点で花園Lは14-0と早くも2トライ2ゴール差のリードとした。
その後は相模原DBに4点差まで詰められるものの、クーパーのPGとワクァが2本目のトライを決めるなど、花園Lは前半を27-15でリードして折り返す。
後半に入ると、8点差で勝利すればD1昇格が決まる相模原DBに攻められる時間帯が続いた。18分には途中出場のエピネリ・ウルイヴァイティにトライを叩きこまれると、SO石田一貴にもコンバージョンキックを入れられて5点差まで詰められる。
しかし、花園Lは28分に相模原DBのノットロールアウェイで獲得したタッチキックで敵陣深くまでボールを進めて、展開からフィフィタがボールキャリーで一気にインゴールまで接近。相手DFに倒されながら放ったフィフィタからのオフロードパスを受けたクーパーが飛び込んでトライ。
クーパーは自らコンバージョンも決めて、34-22とリードを広げた。結局この点差を花園Lが最後まで守り切り、相模原DBを34-22で下して、初代D2王者に輝くとともに、来季のD1昇格を手中に収めた。
切り替えの良さがチームの勝利を呼ぶ
「この1週間、花園L戦に向けて良い準備はできていた」と試合後の記者会見で、相模原DBグレッグ・クーパーHC、安江祥光ゲームキャプテンが口を揃えてコメントした。ミドルレンジのディフェンスを持ち味に、レギュラー季を全勝としていた相模原DBに対して、花園Lはミドルレンジではなくエッジ(外側のポット)を狙って攻撃を組み立てていた。
「(花園Lには)だいぶ研究されていた。私たちの強みを避けて、真っ向勝負というよりは、そこをうまいこと使いながら、エッジに(ボールを)運ぶ。エッジでゲインを決めながら、強くディフェンスをさせない。分析されていたのかなと思います」と安江は続けた。
一方、花園Lの水間良武HCは「自分たちのスタイルを信じて、仲間を信じてやったことで、スコアに繋がった。今季求めていた結果です」と胸を張る。
花園Lは開幕戦の相模原DB戦で、1トライ1ゴール差まで詰め寄ったものの、相手のDFに阻まれて黒星としていた。
「同じミスを繰り返さない、誰かがミスをしても他の選手や同じ選手が違うプレーでしっかり取り返せたのはすごく大きい」とFL野中翔平主将は負けた2試合との違いをこう表現。スコアの展開でも表れているように、この日は失点をしてもすぐに取り返すだけの切り替えができていた。
「チームとしてはそこを重点的に強化していこうとこれまでやってきました。クイックスローも結局止められましたけど、これが我々のスタイルなので、それを遂行しきってくれた」と水間HCがチームを評価すれば、野中も「自分たちがやっていて楽しい、見ている人が楽しいラグビーをしようと、季初めから言っていました。スイッチを80分間入れ続けて、攻めるかどうかはゲームコントローラーが最終的に決断しますけど、そのほかのメンバーは動き続けるマインドを持続できたので、良い切り替えができた」と選手目線でコメントした。
花園Lは、まさに自分たちのスタイルをやりぬいた末でのD1昇格だったわけである。
勝たないといけない時に勝てれば良いから
そんな花園Lにおいて、この日2トライをあげた片岡から「お父さん」と呼ばれていたのが、司令塔のクウェイド・クーパー。オーストラリア代表キャップ75を持つ大黒柱は、2019年に前身の近鉄ライナーズに加入。2021年10月の日本代表戦では代表復帰を果たしていた。
「(試合が終わってから)ウィルとは『面白い数年間だったよな』と話をしていました。加入当時は下部のカテゴリーで、チームが本当に上へあがりたいという想いが強かったので」と話すクーパーではあるが、記者会見の冒頭でこのように切り出していた。
「フォーカスすべきは、自分自身、自分たちであること。季最初からずっとビルドアップしてきました。思い起こせば、今季初めての記者会見が開幕戦の相模原DBに負けた後、ここ(秩父宮ラグビー場)に来たときでしたけど、その時に言ったことを覚えています。相手がどうこうではない。自分たち自身だと。最終的に昇格できるように、季を通してしっかりビルドアップしていく。季を通してやってきて、チームとして選手全員が成長して、今この場に座っている。これは旅の終わりではなく、ここから旅が始まりだと思っています」
「特別なことをする必要はない」「自分自身がヒーローになるという気持ちで戦うな」とクーパーは選手一人一人にこう伝えていた。そして、チームが集合してから41週目となったこの入替戦で昇格を決めたことから、「41週間の努力がやっと実った」と感慨深げに言葉を綴る。
季の始動からこの試合まで、花園Lには様々なターニングポイントがあり、それをクーバーに聞いてみた。
最初にあげたのが開幕戦の相模原DB戦。「初戦の敗戦というのは、その時にみんなに言いましたけど、勝たないといけない時に勝てれば良いから」とまるでこの順位決定戦の結果を予想していたかのようである。
「これは初戦だから。入替戦とか決勝戦とかプレーオフとか、絶対勝たないといけない試合で勝てるようなチームに今からなっていければよいから。それ以降は落ち着いて自分たちのライナースタイルをやっていこう」とチームに呼び掛けていたのだ。
クーパー自身が試合を欠場した3試合についても言及。その3試合とは、第8節(三重ホンダヒート)、第9節(日野レッドドルフィンズ)、第10節(釜石シーウェイブス)のことで、クーパーは手を負傷していた。「私自身、ここ3季試合に出ないという経験をしていなかった。ウィルやほかの選手もケガで出られなかったので、若手が多く出場していた3試合でした」とクーパーは当時の状況を説明する。
「結構タイトな試合が3試合続いて、負けてもおかしくない試合を勝ち切った」と若手主体のチーム編成にもかかわらず、第8節の三重H戦と第9節の日野RD戦は僅差をものにしていた。「ハートも強くなって、ファイトできるようになって、本当に成長が見られた3試合。振り返ってみればケガをしてよかった。私自身も3試合欠場したことで、かなりリフレッシュできましたから」とまさに順位決定戦の快進撃は、クーパーによるケガの功名からもたらされていた。
昇格を決めた瞬間も、クーパーは冷静にチームをまとめていた。「特別な一瞬だとわかっていましたけど、負けて傷ついているチームがすぐそこにいる。前回、花園で相模原DBに負けた時、相手は飛び上がって水を掛け合いながら喜んでいましたが、その時に嫌な思いをしたので、それをやりたくはありませんでした」と続ける。
「我々は勝つべくして勝っているから、あんな大げさに喜ぶ必要はないし、見せつける必要はない」としたクーパー。来季から関西の名門がトップカテゴリーに帰ってくる。クーパーがこれまでチームにもたらしてきたことを、花園Lは来季トップカテゴリーで発揮しなければならないだろう。