文 マンティー・チダ
Bリーグ1部に所属する横浜ビー・コルセアーズ(以下 横浜)は3月3日、横浜国際プールでサンロッカーズ渋谷(以下 SR渋谷)と対戦し、オーバータイムの末に91-86で勝利した。
序盤から横浜はSR渋谷#10チャールズ・ジャクソンを中心にインサイドを支配され、#1パトリック・アウダや#4ロバート・カーターがファウルを重ねるなど、4Q終盤を迎えた段階では敗色濃厚の雰囲気がコートに漂っていたが、オーバータイムまで縺れ込む大接戦に展開は一変する。
そのきっかけを作ったのは、ファウルトラブルで苦しんでいたアウダと、キャプテンが負傷退場というピンチでコートに入った#23キング開だった。
敗色濃厚から始まったドラマチックな「ビーコル劇場」
横浜は、4Q残り4分57秒の時点で59-72とSR渋谷に13点差をつけられていた。
ここまでの試合展開を考えれば、追いつくような雰囲気も感じられない。
しかし、オフィシャルタイムアウトからドラマチックな「ビーコル劇場」が幕を開けたのだ。
横浜#9森川正明、SR渋谷#27石井講祐がそれぞれ3pを決めた後、ここまでペイントエリアで横浜を苦しめていたSR渋谷#10チャールズ・ジャクソンに2回目の個人ファウルがコールされた。
すぐにSR渋谷ベンチがタイムアウトを請求し切り替えを図り、オフェンスリバウンドからジャクソンにジャンパーを決められるが、直後に3回目の個人ファウルを受ける。
この段階で流れはSR渋谷にあったが、横浜は第3Qまでにファウル4回もらうなど、ファウルトラブルに陥っていた#1パトリック・アウダがカットインして得点すると、ディフェンスではゾーンディフェンスを敷き、SR渋谷の得点を止める。
ベテラン#25竹田謙が3pを決めた後も、フロントコートからトラップディフェンスでSR渋谷にプレッシャーをかけていき、石井にシュートを決めさせなかった。
直後に石井のファウルでSR渋谷のチームファウルが5個目に到達して、横浜はフリースローを獲得すると、こちらもファウルトラブルに苦しんでいた#4ロバート・カーターがフリースローを2本入れて、70-78と8点差まで詰めてきた。
残り1分を切って、SR渋谷ジャクソンがルーズボール争いで個人ファウル4回目を喫し、このタイミングで横浜カイル・ミリングHCがタイムアウトをコールすると、流れは一気に横浜へ傾いていく。
SR渋谷#16渡辺竜之佑に対して、アウダが猛烈にプレッシャーをかけていき、渡辺にアンスポーツマンファウルをコールさせると、ここでもらったフリースローを確実に2本きめてき4点差、直後のオフェンスでは生原からパスを受けるとリングに向かってアタックし2点差まで詰めていった。
カーターがバスケットカウントで逆転に成功するが、直後にアウダが個人ファウル5回目を宣告されファウルアウトで退場。SR渋谷ジャクソンにフリースロー1本を沈められて79-79となり、40分間で決着がつかず5分間のオーバータイムへと突入した。
オーバータイムを迎えて、横浜は森川の3pで幸先よくスタートするが、SR渋谷も石井の3pを含む5得点ですぐに同点とする。
ここから引き離したい横浜だったが、アクシデントが襲う。
主将の#46生原秀将が負傷退場となり、コートから離れた。すでに#18森井健太もファウルアウトで退場していたため、試合をコントロールしてきた司令塔が不在になる。
ここで投入されたのが、今週末の琉球戦で特別指定選手の活動終了を発表した#23キング開。
1Qで3pを連続で決めていたが、この時間は生原と交代する形でポイントガードのポジションに入る。
森川の3p、カーターの得点などで89-85と横浜は4点リードするが、ここでカーターが個人ファウル5回目のファウルをコールされてファウルアウト。
横浜は得点源の2人を失うも、ポイントガードとしてボールを運んだキングが、持ち前の走力を生かしてSR渋谷のファウルを誘うことに成功。
フリースローで2点加算し、ディフェンスにおいてもSR渋谷に得点を許さず、試合終了。
横浜が91-86でSR渋谷に競り勝った。
追い上げる展開でタイムアウト、パトリック・アウダがハッスルプレーから蘇る
試合の序盤から、横浜はSR渋谷ジャクソンを中心にインサイドを制される。
ジャクソンと主にマッチアップしていたアウダは3Qだけで3つの個人ファウルを宣告されるなど、アウダの持ち味がなかなか発揮できていなかった。
この時点でアウダは4つ目の個人ファウルを宣告されており、次にファウルで笛を吹かれればコートから退場という状況に追い込まれる。
「ベクトンが怪我でいなかったので、3つ目のファウルをもらった時から、少し気を付けなければいけなかった。ジャクソンは体が強いゆえにアクティブですし、ファウルを受けないように考えていました」
アウダはファウルの回数を踏まえて、慎重に動かざるを得なかった。
しかし、4Q残り4分57秒のオフィシャルタイムアウトから、試合の流れに少しずつ変化が生じる。
横浜はじりじりと点差を8点まで詰めて、残り51.9秒にカイル・ミリングHCが後半3回目のタイムアウトをコールした。
「あの状況であれば、私自身タイムアウトをコールしないのですが」
そう、あの状況とは、横浜が追い上げていこうとした時。
「コートに出ている選手の顔を見ていると、とても疲れていて何もできないのではないのかなというのが見えました」という理由で、カイルHCは追い上げている時間にもかかわらずタイムアウトを請求していたのだ。
「一度呼吸を整え、トラップを仕掛けてスティールを狙いなさい」とカイルHCはタイムアウトで選手にこう指示を出していく。
その結果、アウダがハッスルプレーでSR渋谷渡辺のアンスポーツマンファウルを誘い、オーバータイムに持ち込むきっかけを作った。
「うまく効いてくれて、相手の自信を消せたのかな」
カイルHCにとっては、まさに会心の一撃。
そして、アウダは直後のオフェンスで生原からのアシストを受けて、リングにアタックし得点する。
「オフェンス面に関してはファウルトラブルがあっても、アクティブに自分の持ち味を生かし続けようという気持ちがありました」
アウダは慎重に動きながらも、心の中では持ち味を生かそうとしていた。
「追いかける展開でしたが、今やるか、やらないかという状況でした。トラップディフェンスを混ぜて、それが有効だったという事実はあります。全員でやらなければならないし躊躇している場合ではないと認識していたので、全員からのエナジーは感じていました。その気持ちがゲームプランを遂行することに繋がったと思います」
その後、カーターのバスケットカウントで一時は逆転したものの、渋谷ジャクソンにフリースローで1点加点されて、同点で4Qを終える。アウダがこの場面で勇気をもってアタックしていなければ、追い上げることなく敗戦を迎えていたのは間違いないようだ。
ハーフコートまで勢いよくボールを運びSR渋谷からファウルを誘ったキング開
そして、5分間のオーバータイム。横浜としては追い上げを図ったものの、追い越すまでには至らずにこの時間を迎えていた。
「とりあえずボールをハーフコートまで持って行ってくれ」
カイルHCは、選手へこのような指示を出していた。ポイントガードとして出場していた2人、森井はファウルアウトで退場し、生原もこの時点でファウル3つをもらっていた。
「ボールをどうやってハーフコートまで運ぶのか、みんな違うポジションをしないといけなかった。カーターにボールを運ばせて、仲間を生かせる状況を作ってくれと。結果、森川の3p、カーターもアシスト7という結果になりました」
オーバータイムの裏で、横浜は総力戦で戦っていたのだが、84-82と2点リードした場面でアクシデントが発生する。
ここまでチームを牽引していた生原がケガでコートを離れることになり、交代でコートに入ったのがキングだった。
「チームの状況から、いつ出てもおかしくないと思っていましたので、出られるように準備はしていました」
キングはコートに入ると、ポイントガードのポジションに入ってボールをキープすると、持ち前のスピードを生かしてリングを狙いに行った。
その結果、相手からファウルをもらうことに成功し、フリースローを獲得する。
キングは今週末の琉球戦をもって、特別指定選手としての活動を終了する。横浜の選手としては今シーズン最後のホームゲームを迎えていた。
ここまで出場機会に恵まれていなかったが、チームがピンチの場面でコートへ立つことになる。
「少し緊張していましたね。緊張というよりはやってやろうという気持ちでした。緊張していれば自分の中で良いことは起きないと思っていましたし、やってやろうという気持ちを持つことで自分らしさがでるかなと」とキングは気合十分でコートに入っていた。
この日は序盤で3pを2本連続で決めている。キングは特別指定選手として横浜に入団した時から課題として認識し、3pの練習を毎日続けていた。
「最後のホームゲームというところもありますし、試合に出場できていなかったので、積極的にアピールしかないと。前回の川崎戦もボールをもらえれば、積極的にシュートを打って決まったので、今回も同じような気持ちで臨み、結果につながりました」
カイルHCは、キングについて「練習に対しても熱心に取り組んでいます。最後までプレイングタイムがもらえない状況でしたが、この日はそういう機会を自分で奪い取ったのはあるでしょう。これからどんどん成長してもらせると明るい未来が待っているのでは」と今後に期待を寄せる。
キングは4月から専修大学男子バスケットボール部のキャプテンに就任することを公表した。
「大学最後の年でキャプテンになりますけど、チーム内のコミュニケーション力が一番大事だと思っています。練習中でも、監督や選手同士でたくさんコミュニケーションを図ろうというのは、大学に戻ってからみんなに話すつもりです。横浜で学んだスキルの部分も、積極的にチームに伝えて、チーム全体でレベルアップできるようにしていきたい。目標はインカレ優勝。東海大、筑波大を中心に、今年は特別指定選手を経験している選手が多い。簡単にはできないと思いますが、小さなことでも全員で共有できればレベルが上がっていくと思いますので、キャプテンとしてみんなに声をかけていきたい」と横浜で学んだスキルやコミュニケーション力を大学に還元することを誓った。
そして、特別指定選手の活動から、改めて自分のプレースタイルについて問いかけてみた。
「最後は頼られる選手にならないといけないと思っています。ポイントガードでもシューティングガードでも任された役割はできるように。そして、将来海外に挑戦できるチャンスがあるのであれば、積極的にトライしたいと考えていますので、そのためにはポイントガードに力を入れていかなければならないと。ポイントガードは始めたばかりで、横浜でも生原さんや森井さんに気になる事はたくさん質問をしていました。ポイントガードという役割が自分の中でできるようになれば良いですね」
キングはポイントガードとして、海外に挑戦したいという夢を明かした。
プロの舞台でオーバータイムといった独特な雰囲気を経験できたのは、キングにとって大きなことだろう。
持ち前のスピードに加え、横浜で練習を積んだ3pシュートを新たな武器として、得点もできるスケールの大きな選手へと育ってほしい。