文 マンティー・チダ
Bリーグ1部に所属する横浜ビー・コルセアーズ(以下 横浜)は9日、アウェイで川崎ブレイブサンダース(以下 川崎)との「神奈川ダービー」に挑み、最後までもつれた末に77-78とわずか1点差で敗れた。
今シーズン初の「神奈川ダービー」は4Qに横浜が追い上げを図るも、あと一歩届かなかった。
横浜は得点源である#4ロバート・カーターを中心にオフェンスが改善され、今後に期待を抱かせる内容となった。
その裏で、横浜カイル・ミリングHCの絶妙な選手起用が4Qの追撃態勢を強めたのである。
最後まで川崎を追い詰めるが・・・
1Q、試合開始から主導権を握ったのは横浜だった。
カーターが先制すると、#1パトリック・アウダのバスケットカウント、さらにカットインやドライブからのレイアップと得点を重ねて9-2とリードする。
ここで川崎ベンチにタイムアウトをコールされると、#27熊谷尚也の3pを皮切りに、#34パブロ・アギラールのレイアップなどで川崎に同点まで持ち込まれた。
ここで横浜は#18森井健太、#7レジナルド・ベクトン、#22秋山皓太をコートに入れて流れを変えようとするが、川崎の勢いが止まらない。
#22ニック・ファジーカスの連続得点、#0藤井祐眞が3p、ベクトンのパスミスからスティールをしたアギラールにファストブレイクを決められるなど、川崎に9点のリードを許す。
終盤、横浜も盛り返すが、15-22と横浜に7点ビハインドで1Qを終了。
2Q、3Qと終了し、点差がほぼ変わらないまま4Qを迎える。
横浜は57-67から#10アキ・チェンバースの連続3pで一気に4点差としたところで、川崎がタイムアウト。
ここからはお互いに譲らない展開で63-71と中盤を迎えると、横浜は川崎のプレッシャーディフェンスにもめげずアウダがレイアップ、ベクトンがゴール下からねじ込むように得点し、再び4点差に接近。
川崎もここから意地を見せて、#14辻直人が3pを含む5得点をあげるなど、再び引き離して78-72とした。
終盤、横浜はコートに戻っていたカーターがレイアップと3pで5得点を稼ぎ、川崎を1点差まで追い詰めるも、最後のポゼッションでカーターのシュートが外れて万事休す。
横浜はアウェイゲームで「神奈川ダービー」初勝利とはならなかった。
ベクトンが4回目の個人ファウルを受けてもコートに残す決断をした横浜カイル・ミリングHC
横浜はようやく今シーズンのロスターがほぼ集合。
メンバーが揃うと様々な面でスムーズに戦えるようになっていた。
カーターのアウトサイドが得点源となり、川崎にダブルチームをされ始めると、他の選手がシーズン前から取り組んできたドライブからのキックアウトをやり続けて得点を重ねていく。
その部分を警戒され出すと、カーターがフリーになってシュートを決めていくなど、横浜のオフェンスは明らかに良くなっていた。
ターンオーバーも9に抑えて、数字からも成長が感じられる。
川崎佐藤賢次HCが「試合前にこちらで考えた戦術プランを選手が40分間遂行してくれて、満足できる試合でした」とコメントするほど、川崎としても事前に設定したプラン通りでやり切っていた。
リーグ戦は60試合終えての結果であるため、決して「価値ある負け」ということで評価をしてはいけないが、まだまだ2/3以上の試合が残っていると考えれば「価値ある負け」と表現したいほど、横浜はチームとして成熟した姿を見せてくれた。
さらに驚いた場面も。4Q出だしからオフェンスの要として戦ってきたカーターをベンチに下げて、ベクトンとアウダでインサイドを構成する。
「相手のビッグマンに対してベクトンを使いアタックし、アウダはピックアンドロールから相手にアタックしたい」とカイルHCはカーターを4Q最初から起用しなかった理由を明かす。
カーターは3Qで10分間フル出場し、4Qを迎える段階で約25分間プレーをしていた。
カーターを休ませてベクトンを起用するというのは、タイムシェアの観点から見ても理解できるが、そのベクトンが残り7分6秒で個人ファウル4回目を喫し、あと1回ファウルのコールをされれば退場というシチュエーションを迎えていた。
試合終了まで7分以上残っていたので、ファウルトラブルになりやすいベクトンだからこそ、一旦ベンチに下げて終盤の勝負所で再びコートに入れるという選択肢もあったはずだ。
ベクトンは今シーズン7試合でダブルダブル(得点とリバウンドが2桁)を達成しているが、ベクトンに「自信を取り戻させたい」という考えでカイルHCはコートに残す決断をする。
ベクトンは前半でリバウンドを6本数えたが、得点はわずか2得点。
インサイドも川崎に支配され続け、ペイントエリアで得点を許すシーンも多くあった。
「前半良いリズムでプレーができていなかったので、4回目のファウルをもらった後でも、彼に自信をつけさせるわけではないが、調子を上げてもらいたいということも考えていました。後半の入りも良かったですし、4回目のファウル後でも、チームとしてしっかりプレーができていたし、彼の調子も良かったので、そのままコートへ残すことにしました」とカイルHCはベクトンの調子を取り戻させるための作戦だったことを明かした。
この作戦をきっかけに、ベクトンの動きは良くなっていく。
ゴール下からねじ込んでシュートを入れるなど、川崎を1点差まで追い詰める。
結果論に過ぎないかもしれないが、もしカーターをベクトンと交代させていたら、この追い上げは無かったのかもしれない。
カーターを休ませたことで得た大きなチャンスから、ベクトンは自信を取り戻していった。
あと1点届かないところで試合は終わったものの、横浜は今後のことを考えると収穫の大きな試合となったはずだ。
東地区要注意チームの一つへ
「何か自分たちは工夫をしないといけない」
これはカイルHCが来日してから記者会見で何かを尋ねたとき、必ずと言って良いほど返ってくる言葉だ。
実際に川崎戦後でも同じような内容でコメントをしている。
選手個々の能力だけで考えれば、上位チームと差があるのかもしれない。
しかし、バスケットボールはチームスポーツであって、個人スポーツではない。
コート上の5人、ベンチに入っているロスター、コーチスタッフ、全員が力を合わせてチームビルディングをする必要がある。
川崎には昨シーズンリーグ戦で1勝するまで負け続けてきたが、今回の試合では10点リードされても最後まで喰らいついた。
川崎としても準備していた戦術を40分間遂行した。1点差まで詰め寄った横浜のチーム力は評価しても良いのではないだろうか。
そして、カイルHCも選手の特徴や性格を把握し、選手起用を通してコンディションを上げるという采配をしてきた。こうなれば選手としてもモチベーションが上がり、意欲も湧いていく。リーグ戦はまだ40試合も残されている。この試合をもって、東地区要注意チームの一つに横浜が名を連ねたのはどうも間違いないようだ。