文・写真 マンティー・チダ
大学女子バスケットボール界において、ここ数年で強豪チームへと成長した東京医療保健大学。
昨年行われた第71回全日本大学バスケットボール選手権大会では、最強世代と呼ばれた選手たちとともに3連覇を飾った。
2020年4月を迎えて、選手たちと新たなスタートを切ろうとしたところで、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、春の選手権大会、新人戦が軒並み中止に追い込まれる。
夏が過ぎ秋を迎えて、例年とは規模を縮小ながらリーグ戦の開催が決まった。
昨年、チームを3連覇に導いた恩塚亨監督は、アカツキファイブ女子日本代表のアシスタントコーチでもある。
本来ならば東京オリンピックへ向かうはずが、こちらも新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催が1年延期となった。
コロナ禍の影響で恩塚監督の動きも大きく変わった模様。
インタビュールームに入った恩塚監督は、きれいに日焼けをしていた。
いつか「死ぬな」と
― 日焼けされましたね。
はい、これまでの人生で一番日焼けをしています。
ランニングと読書で焼けました。歩きながら本を読んでいます。
頭が使えますので意外と読めますよ。
― 今は何を読書されていますか?
USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を復活させた森岡毅さんの本を読んでいます。
コロナ渦で代表活動が無くなってからはひたすら本を読んでいて、主にマーケティングの本を読んでいました。
― コロナ渦になってから、恩塚監督の動きは変わりましたか。
動きはかなり変わりましたよ。人生が変わりましたね。
― どういったところで。
不謹慎かもしれませんが、いつか「死ぬな」と思うようになったことです。
「死」を意識するようになって、死ぬときに “どんな人生だったのか” “どんな人生が自分の望む人生だったのか”というのを考えるようになりました。
「七つの習慣」の第2章で終わりを描くというのがありまして、それをよりリアルに考えるようになりました。
― 「死」という言葉が出ましたが、ネガティブなところがありましたか。
ネガティブな感じではなくて、確かにそうだと思っていました。終わりを思い描きながら、一番大切なことを大事にする。自分の人生、あと何をしたらよいのかなと考えるようになりました。
― これらを踏まえて、どのようにプロセスを歩んでいこうと思われたのですか。
私はコーチとして、成長したいと願っているプレイヤーの力になるために努力する人生、それにより私はプレイヤーが成長する姿を見ることで幸せになれますし、プレイヤーは偉そうかもしれませんが、学びがある中で成長することができることを喜びとした人生を送りたいと考えています。
オリンピックもあるかどうかわからないではないですか。
オリンピックも延期になって、初めは残念で今年やりたかったですが、終わりを思い描いたときに自分がオリンピックのコーチだったかどうかは、一番重要ではないと考えられるようになりました。
― それまではオリンピックに行きたいという考えが強かったですか。
やっぱりオリンピックには今年行きたかったですし、下心はあったなと思います。
今はその下心がほぼ無いです。
行けなかったとなっても、自分の人生に彩りが無くなるとは全く思っていないです。
― 今の段階で終着点は何だろうと思いますか。
その選手が求めている、一番あてはまるコーチングが的確に言葉を使ってできることです。
― 選手からすれば、それは最高ですよね。
そうですね。そうなれたらよいですし、そうなるために勉強します。
― 現在はそのような考えのもとでチームにも接していますか。
以前からもこういう気持ちではいましたけど、より強くなりましたね。今、何が一番大事なのか。
バスケットボールを進化させたい私の想い
恩塚監督は「死」を意識したことにより、改めてバスケットボールのコーチングや選手たちとの接し方を見つめ直していた。
ではどのようにチームと接していたのだろうか。
― 昨年まで主力だった選手たちが卒業しメンバーも入れ替わった中で意識した点はありますか。
昨年は個人技で突破できる選手、解決できる選手が多かったのと、私自身が代表活動であまり関われなかったのでシンプルに持っている力を出し切れること、それを全員で協力して発揮できることを目指していました。
今年は、個人の力としては正直昨年より落ちます。
昨年そこまで試合に出場していた選手ではないですので。
バスケットボールのパフォーマンスを上げる。
抽象的になりますが、バスケットボールはどんなスポーツで何が勝敗のポイントになるのか、自分たちでやろうとしていることがより明確に思い描けることにより、力を合わせてプレーできるようにする。
単純に場面を理解すること、まず場面の理解をできない選手が多いです。
今から何をしようとする局面で自分の役割が何なのか。
それをきちんと理解できるようにブレイクダウンして、現在地を理解した上で原則に基づいたプレーをできるようにしようとしています。
― いろいろ難易度が高くなっていますか。
初めの頭の理解は難しかったと思います。
でも、今は選手たちもわかってきてすごくプレーしやすくなってきました。
― 今年のメンバーに対して、これまでとはアプローチを変えましたか。
正確に言うと、経験の少なかった選手たちをレベルアップさせるために、今やろうとしていることをやったのではなくて、シンプルに私自身がバスケットボールでより選手がパフォーマンスを発揮できるためにはどうしたらよいかということを勉強し、何か見出して進んでいくという感覚です。
選手に合わせるというよりは、バスケットボールを進化させたいという私の想いです。
― 監督自身のスキルアップから始まった感じですか。
はい、すごく勉強しました。バスケの本はめちゃくちゃ読みましたよ。
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